培養X年目の与太話

培養、与太話

細胞培養と与太話で生きてます。

2021年8月 アレコレ考えちゃう映画

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今年になってから、何となく面白そうと思う映画を観に映画館へ足を運んでいる。

最近だと『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観た。

全体を通して画面の色彩が豊かなのが印象的だった。

Never young beach が主題歌を担当していた点も気に入ったポイントだった。

 

これまで積極的に映画館へ行くことが少なかったけど、

今年に入ってから面白そうな作品が増えてきて、ワザワザ足を運んでいる。

今年の8月は2本を観た。

どちらも考察に富む面白い作品だったので、感想を書き残しておく。

 

 

1.サマー・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビ放映されなかった時)

searchlightpictures.jp

 

この映画はCMとかではなく、 映画館入り口にあったチラシで知った。

動員観客が~、興行収入が~、とかそういう商業的な執着は感じ取れなくて、

純粋に監督が世間へ発信したい事実をまとめたドキュメンタリー映画だった。

会場に入っても、封切り2日目だというのに

200人以上入るスペースに観客が6人しかいない。

それくらい客層もニッチということか。

 

1969年、アメリカ・ニューヨーク州 ハーレム地区で開催された

「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」の様子と、

それがアフリカ系アメリカ人が中心の黒人文化にどんな影響を与えたのか、

それを黒人を取り巻く当時の社会情勢と絡めて解説している。

と同時に、黒人音楽が現代のポップやロックミュージックに

強烈に影響を及ぼしたことが感じ取れる。

 

当時、リンカーン大統領の奴隷解放宣言から100年余りが経過した一方、

黒人に対する差別は依然として残り続けていた。

例えば、公共交通機関で使用できる座席が人種で別れていたり、

黒人だけが特定の地域に固まることが暗黙の了解になったりしていた。

だけど、この背景があったからこそ、黒人音楽が醸成されてきたのも事実だった。 

詳しくは、みの著『戦いの音楽史』が参考図書になる。

同書は以前の記事にも取り上げた。

sciencecontents.hatenablog.com

 

黒人にも一定の社会的な自由が認められているものの、

一般的な扱いが劣悪だったことには変わりなかった。

そんな中、黒人の権利を支持するリベラル層だったキング牧師

ジョージ・ケネディが暗殺されたのは黒人コミュニティを絶望させた。

そんな先導者を無くした黒人たちの代弁者になったのは、

当時活躍していた同じく黒人のミュージシャン達だった。

黒人ミュージシャン達は、そんな世相に対するプロテスト・ソングの

意味合いも含めながら、ファンクやロックを発展させていった。

これは、現在のポップ音楽の礎にもなっている。

 

劇中のフェスティバルの記録では

スティービー・ワンダーとかスライ&ザ・ファミリーストーンなど

若かりし頃のレジェンドが登場する。

特に注目したのがステージ上で黒人ミュージシャンが観客へ放った言葉だった。

「黒人のみんな準備は良い?」

「我々は美しい存在だ」

「我々ニ◯ロ ではなく、Blackだ」

(そのままの言葉ではないが、そんなニュアンスのことを言ってた)

 

観客のほとんどが黒人であったことから、このメッセージは大きな爪痕を残した。 

これは当時の黒人コミュニティにとって、意識改革の契機になった。

パーソナリティとしての黒人を社会的なコンプレックスと認識するのではなく、

優れた、美しい人種であることを再認識するきっかけだった。

アフリカ音楽を基礎にした感性、文化的な強みを背景に、

自分たちが本当に楽しめる世界を構築していく試みともいえる。

 

www.youtube.com

 

それまでのステレオタイプを音楽の力で塗り替えていったミュージシャンや

その周囲の人々の行動には、今の時代を生きるためのヒントが

隠されている気がしている。

また頭が整理できたら、色々考察してみたい。

 

実際に映像で見た方が圧倒的に実感しやすいので、

是非観てみて欲しい作品。

 

 

 

2.岬のマヨイガ

misakinomayoiga.com

 

これは単純に作画の雰囲気が好きで観に行った映画

劇中音楽を羊文学が担当している。

 

東日本大震災から10年が経過する節目に、東北をテーマにしたアニメ映画プロジェクト

「ずっとおうえんプロジェクト 2011+10 」で制作された。 

その背景もあってか、主人公たちは震災で居場所を失った設定であり、

人間を歓迎してくれる不思議な古民家「マヨイガ」に出会うところから始まる。

物語のストーリーは妖怪達「ふしぎっと」との交流を軸に進む。

遠野の妖怪伝説があるように、岩手を中心に東北地方には妖怪にまつわるエピソードが多い。東北らしいテーマだ。

 

 

ここからはネタバレにならない程度に感想を書く。

全体を通して得た印象は、震災で多くを失った人々に対し、

今目の前にある大切なモノ(者か物)や環境を再認識して貰うメッセージを込めた作品だった。

災害が起きれば、その土地の人間は多かれ少なかれ何かを失うことになる。

身近な人間、住宅、思い出の場所・物、仕事、街のシンボル いろいろ。

重要なものを失えば、多くの人間は負の感情を抱える。

それが積み重なると、やがて大きな負の雰囲気として地域に広まることになる。

過去の歴史を紐解くと、こういった雰囲気を古い時代の人間たちは

妖怪など異形の存在として表現する例が多く見られる。

作者が何を思って創作したかは想像の範囲内でしかないが、

ストーリーと妖怪との関連性はそういった見方ができるかもしれない。

暗い雰囲気は地域の人間の活力を下げ、復興や次の日常を取り戻す妨げになる。

10年の年月を経ようと癒えない傷はあれど、

今、目の前にある場所、人、物の重要性を再認識し、それを育み

次の世代の街を創っていくことへの前向きなメッセージを感じた。

 

でも、見方を変えれば、災害以外のことでも言える普遍的なメッセージとも取れる。

大小関わらず、数十人以上の人間が集まるコミュニティにおいて、

その場の空気はコミュニティの精神的充実へ大きく影響する。

かなり限定的な話になるが、

今のコロナ渦で世間全体にウィルスのみならず、

後ろ向きな空気も蔓延していると感じている。

今、目の前にあるものを大切にして、前向きに生きる方法を模索しよう。

言い換えれば、「如何にして今の瞬間を楽しむために知恵を絞るか?」

を投げ掛けているようにも思える。

 

他にも考察要素が多い作品なので、是非観てみてほしい。

羊文学、エエで。

 

 

次は何を観ようか。

10月くらいにまとめて新作を漁ってみるかな。