培養X年目の与太話

培養、与太話

細胞培養と与太話で生きてます。

実験機器を導入しても業務は効率化されない・・・・なぜか?

      

 

現場での機器運用に携わっている身分として、感じたことを書きました。

 

【こんな人に向けて書きました】

  • 仕事でラボ運用をしている人、しようとしている人
  • 開発現場で新しい機器を導入を検討している人
  • ラボでの作業効率を向上させたい人

 

はじめに

研究開発の現場にまつわる、ちょっとショッキングな話。。。

 

実験をしていると、日々多くの機器に触れる。

使う機器は分野でマチマチであろうけど、

バイオや化学は特に使用機器が多い分野じゃなかろうか。

手順が多い実験作業を自動化してくれる機器は、現場人間からすれば有り難い。

だけど、実験機器を導入すれば万事解決と言えるのだろうか?

必ず仕事が効率化されると言って良いのだろうか?

もし効率化されるとしたら、秘訣ってなんなのか?

今回はそんな実験機器の運用についてのあるある話

 

実験が自動化できると喜んでいたが・・・

ある時期、社内では毎日のように培養液のグルコース測定をしていた。

グルコース測定のようなポピュラーな分析手法では市販測定キットを使用する。

単純な測定原理のものだから作業時間はせいぜい30分。

ただ、手順も簡略化されてはいるとはいえ、

測定の回数や頻度が高くなっていくと手間に感じていく。

たとえ1回30分と分かっていても、準備や片付けなど雑多な作業を含めると、

日々の作業負担が大きくなる。

測定担当の人を雇ったり専任する案も出たが、

全員が掛け持ち業務で運用される環境でそれは難しい。却下だった。

加えて、今後はグルコース以外の分析も必要になってくる。

たとえば、乳酸、グルタミン、アンモニアなんかがそうだ。

これらも全てキットで分析すると、工数が増えることは間違いない。

 

そんなとき、新規に分析機器を購入する話が出た。

その機器はバイオ分野、特にバイオリアクターを用いる

発酵や創薬で使用例の多いものだ。

サンプルをセットすれば自動的にグルコースや乳酸といった成分を分析してくれる。

 

「実験の自動化」

 

現場からしてみればこれほど魅力的な話はない。

見積もりや他メーカーとの比較検討を経て直ぐに導入が決定した。

決定の決め手になったことは2点あった。

  • 自動化できる測定項目が多いこと
  • 他メーカーに比べ、機器本体の価格が安かったこと

 

2カ月後に機器が導入され現場での使用が始まった。

これで万事解決する。

自分も含め現場の人間はそう思ったに違いない。

そう思ったのも束の間、運用の課題にぶち当たることになる。

 

運用の課題1 操作の習得

運用を開始してまず感じたのは機器操作の煩雑さだった。

電源を入れて機器が温まるまで待機する。

機器まわりの消耗品を交換し、廃液があれば捨てる。

消耗品試薬が入ったカートリッジをセットする。

定期メンテナンスが必要な器具、部品があれば対応する。

機器の分析条件を整備(例えばキャリブレーション)する。

標準液を使って、狙った濃度の値が出るか確認する(クオリティチェック)。

1時間以上をかけて準備し、昼頃に肝心の分析がスタートできる。

 

面倒だ。手間が多過ぎる。

最低限の使用にも覚えることが多い。

消耗品の種類・使用期限、消耗品のロットが変わった際の対応、

この部品は何なのか?

何のために付いているのか?

なぜ定期的に交換するのか?

メーカーも納入時に講習会を開いてくれるが、

如何せん内容が多くて頭に入らない。

 

もちろん、実験機器を扱うのであれば中身の動作原理や測定原理を知るのは

現場人間として当然の姿勢なのだが、業務のなかでそれを実行するのは

どうしても手間になる。

 

 

運用の課題2 消耗品の管理

機器が導入されたら、消耗品の管理方法を整理しなくてはならない。

消耗品在庫を切らすと分析作業ができなくなるからだ。

特に外資系メーカーの製品の場合、

物理的な距離はもちろんのこと、世間の状況が影響して

納期が1ヶ月以上かかることもザラだ。

その間に実験ができないとなれば、開発もストップし痛手になる。

実際、使用人数が増えるとそういった状況になりがちで

メーカー納期と現場の折り合いをつける調整業務に時間を割くことも多い。

 

そして、特に注意したいのが消耗品コストの負担だろう。

買った機器本体が安いが、消耗品が高いケースがある。

実際に計算してみて分かったのは、

年間での消耗品コストが機器本体価格の50%近くになることだった。

少なくとも3年は使い続けるのであれば、機器本体の額をゆうに超える。

言い換えれば、機器を買った時より買った後の方が出費が高いことになる。

それがメーカーのビジネス形態であり、一番儲かるところなのだろう。

電気シェーバーを使い続けるために、高額な刃を買い続けるのと似ている。

 

研究開発で出費が嵩張るのは仕方ないとしても、

どれくらいの出費があるか知ったうえで使用したいものだ。

 

運用の課題3 トラブル対応

多機能、自動で動く実験機器ほどトラブルが多くなる傾向にある。

使う部品や消耗品が多かったり、作業者が触る部分が多くなるほど

トラブルの原因は増えていく。

加えて、使用人数の増加も機器トラブルの原因になる。

操作方法を理解せずに動かそうとする人間が出てくるからだ。

 

そしてそれらのトラブル対応をする身として困ったのは、

見たことの無いエラーが度々出てくることだ。

その度にマニュアルをめくり、機器のどの部分の問題かを探し当て、

手順に沿って1つずつ解決していく。

 

 

人間が扱ういじょう、運用方法は永久の課題

その時に思った。

「そうか、機器は導入した後が大変なんだ」と。

 

機器はあくまでも数値データを出すツールに過ぎず、

その数値を見て意思決定をしたり次の作業を考えるのは人間の仕事だ。

機器管理に時間を割いても開発は必ずしも進捗しない。

でも機器が止まると開発作業は確実にストップする。

機器運用はそういう割に合わない至極地味な戦いだ。

じゃあ機器運用専門の人員を配置すれば良いと思うだろうが、

ほとんどの研究開発ベンチャーにそんな余裕は無い。

結局は現場の人間から担当者を選定するしかない。

 

実験機器はあくまでもツールでしかない。

そのツールを使うのはただの人間で、人間であるがゆえに

面倒くさがったり忘れたりする。

なので運用の仕組みを作らなくてはならない。

といっても、仕組みづくりでさえ面倒くさいものだが。

 

最後に

この記事に最後まで付き合ってくれた方へ感謝したい。

そして、いま一度考えてみて欲しい。

  • 機器を導入さえすれば、全ての実験作業が早くなると思っていないだろうか?
  • 機器で自動化さえすれば、開発もスムーズになると考えていないだろうか?
  • 機器を導入した後の現場への指導やサポート、消耗品を含めた運用は想定できているだろうか?
  • 前述のような事例に心当たりは無いだろうか?

少しでも導入後のことを考えるキッカケになれば嬉しい。

 

機器運用の話題については今回で終わりにせず、

前向きな運用方法についても今後書いていこうと思う。

 

 

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