培養X年目の与太話

培養、与太話

細胞培養と与太話で生きてます。

細胞農業のなかのコスメ どう語ろう?

 

1/19コスメ展示会@東京ビッグサイトに参加した。

学びの機会を与えて貰ったことには感謝だ。

目的は自社のオリジナル原料 CELLAMENTの顧客開拓だった。

 

研究開発現場として展示ブースのヘルプをしに行ったわけだけど、

ブースに来る人が何に興味をもって来るのか?

ウチの製品をどう語ろう?と好奇心が先にあった。

なにしろ入社して5年以上経つのに、コスメ分野にほとんど触れてこなかった。

 

普段はデータを積み上げて理論的、客観的であることに徹しているつもりだが、

コスメって必ずしもそうでない印象がある。

なんだか普段のやり方が通用する気もしない。

来場者は研究系よりも商品企画やマーケティング系の人が多いと聞いていたし、

実際そうだった。

事前に配布資料を読んだり、これまでの製品HPを見たりして

「こういった表現で訴求しているのか」と把握しつつも、

コスメ分野らしいトンマナ、研究現場の人間としてどう語るか?

は当日までボンヤリしたままだった。

(例えば、よく聞くシズル感ってホントなんなんだ?)

 

 

当日のブースの対応は来訪者の反応を探りつつだったわけだが

対話のなかで感じたことがある。

  • 自社製品を知っている人は意外と少ない(社名だけ知っている人は多かった。あれだけ膨大な数の展示があるのだし、無理も無いが。)
  • ブースの「細胞農業」が気になって来た人が多かった

そういう来訪者からすれば、

「細胞の農業ってなに?コスメとなんの関係があんの?」

「おたくって培養肉の会社じゃなかったっけ?」

となるはずだ。そういう質問はあったし。

すると、セラメントの実績、強み、効果効能と同じくらい

「なぜ、ウチがコスメをやるのか?」言い換えれば

「ウチが細胞農業の一貫でコスメをやる意味って?」

の説明が要る。

一瞬答えに窮したが、これまでの考察をもとに答えることにした。

 

ウチは細胞培養によるモノづくり『細胞農業』の普及を目指すベンチャーで、食肉生産の実現を目指している。

大規模に食肉を生産するため、どうやって細胞を若々しく保つか?が重要になると考え研究開発をしてきた。その過程で見つけたのが原料の細胞だった。

若々しくする機能がコスメ原料に合致すると考えたのをキッカケにセラメントを開発した。

細胞農業でのモノづくりがサービスや事業に繋がることを世間に示す意味もあった。

 

 

もっと良い説明があったかもしれない。

他にも考えさせられた質問に

「なぜこの細胞を使うのか?他の上清液の細胞との違いは何か?」があった。

科学的なエビデンスを聞きたい意図があったのだろうが、

原料細胞をどんなイメージで捉えたら良いのか?という意味にも聞こえた。

 

多くの上清液はヒトの大人由来の細胞から作出される。

それに対し、ウチの原料細胞は胎児期の卵からのみ回収できる細胞。

大人とは違い、若いとき特有の機能をもった細胞が取れる

事実以上でもそれ以下でもない。

 

昼休憩中、会場内をふらついていたらあるブースで

ヒト毛根細胞順化培養液なるものを見かけた。ヘアケア向けの原料らしい。

毛根細胞を強調すれば毛に効果があるイメージを想起しやすいってことなのか?

その他にも、細胞名や関連されるイメージを強調したブースは多かった。

どんな訪問者も、初見で科学的なエビデンスを吟味する人は少ないのかもしれない。

となると、細胞そのもののイメージを端的に訴求する必要があるってこと?

細胞のブランディング???

乳酸菌飲料に使われる菌(iMuseとか)みたいなやつ?

 

 

振り返れば、訪問者からの反応は考察ポイントが富んでいた。

どうやら細胞農業は、コスメの世界観として一定の機能を果たしているらしい。

細胞農業がフックになって訪問者は「なぜ細胞農業でコスメ?」

「培養肉とどう関連するの?」となる。

そこを説明で解消してあげ、

  • 培養肉の研究過程でしか生まれ得なかったこと
  • 根幹には新しい細胞培養技術があること
  • 今後、ものづくりとして広がりが期待できること

に納得感を得てもらう。

 

うまく説明できれば訪問者は、

理解できるけど少し意外!もっと知りたい!

となるのかも。

 

もちろん、その後の商談・採用に繋がるかは別なのだが、

他社に無いコンセプトで開発している点には納得頂いた様子だった。

会場を歩いて実感したけど、世間は似た商品で溢れかえっているし、

各社が手を変え品を変え魅力をアピールしている。

競合が多いのは当たり前だが、現場であれ程のリアルを見せつけられると

強く意識せざるえない。

 

ところで、原料を探しにきた開発担当者はきっと似た悩みを持つはずだ。

 

で、結局のところ、どの原料が魅力的だったっけ??

 

自社原料が業界初の特異的な機能や効能をもっていたとしても、

似たりよったりな製品があるのは事実だ。

少し歩くだけでも、培養上清原料を配合した製品は10個以上見つかった。

来訪者に自社製品を科学的エビデンスをもとに他社と比較してもらい、

吟味して貰う負荷を強いるのは間違いなのだろう。

それに、コスメ製品は薬機法の都合もあって効果を明確に謳いずらい。

だからこそ、多くの製品にはブランディングやイメージが先行すると分かった。

 

原料に含まれるタンパク因子の濃度で競り合ってもキリが無いし、

別の視点の提案が必要になる。

細胞農業はその点では確かに強い要素だし、

食肉が実現すればコスメのストーリーにも何かしら作用するだろう。

 

 

撤収後の打ち上げの席で聞いた言葉が印象的だった。

「コスメはサインエンスであると同時にアート」

そうかもしれない。

業界的なブランディング理論はあれども、

どこか掴みどころの無い、実態の曖昧な要素がある。

そんな気はした。

 

普段の業務では実験からエビデンスを積み上げて、

その先の客観的な納得感が目的になりやすい。

だけど、コスメ分野ではそれと同じくらい数値化できない

主観的な納得感に重きがおかれる。

これは何というか、好きなミュージシャンを見ている感覚に近い。

魅力をうまく言葉にできずとも、惹かれる人は必ずいる。

とはいえ、魅力的であるってことは少なくとも

ファンである自分にとって納得感につながる一貫された創作の姿勢があるはずだ。

 

勉強になった!!

お疲れ様でした!!!