研究者の説明図画制作 ~制作依頼に対するの意識調査~
皆さんは、研究発表にイラストは使ってますか?
先日面白い資料を読んだので、今回はその記事にしようと思います。
テーマは「科学者によるサイエンスイラストレーション作成の実態」という調査報告です。
筑波大学の先生を中心に設立されたサイエンスビジュアライゼーション研究会が手掛けたものです。
この調査報告では、イラストの使用の意義を
(1)直感的な理解
(2)詳細な情報の正確な伝達
(3)即時性
(4)強烈な記憶形成
としています。
研究分野が多種多様になっている現在、研究費を獲得するために「分かりやすく伝える」ことの
重要性が説かれているのは皆さんもご存じでしょう。
大型の公的研究資金(3000万円以上)をもつ研究者には、研究アウトリーチ活動が
義務付けられています。しかしながら、具体的なノウハウを学ぶ機会はまだまだ少ないのが実情です。
ほとんどの場合、説明図画は研究者個人がパワーポイントやIllustratorを使用して制作しますが、そもそも研究者はイラストレーターではなく、就業時間の多くを制作に費やすわけにはいきません。そこで、魅力的なイラストを使用するために制作を依頼するという選択があります。
今回の記事の本題はここからです。僕がこの報告資料を読んで驚いたのは、
「イラストレーターを含むクリエイター業界での制作についての認識とのズレ」です。
特に気になったのは、制作費用と制作期間の2点です。
1.仕方ないかもしれないが、希望の制作予算が安すぎないか?
資料中の図15「妥当な価格」を見てみると1万円以下を希望する人が7割強になっています。
この中には学部生や大学院生、助教など比較的アカデミアの中でも購買力が高くない人たちも含まれていると予想されますが、実際のところ一般の研究室レベルでもイラスト発注で数を重ねるのは難しいです。
というのもほとんどの研究室の場合、研究費は決して潤沢ではないためです。科研費が地味に削られつつある昨今、アウトリーチ活動に十分にお金を割ける研究室は多くありません。この点を踏まえれば、制作依頼に掛かる予算をなるべく抑えたいのは納得のいくところ。
実際はのところ2Dイラストだと3000~5000円で引き受けてくれることもありますが、
3DCGで立体感を演出する場合、最低¥10000からと考えるのが妥当です。
イラスト制作は専門職のうえ相場が曖昧であり、値段も高くなる傾向にあります。
その状況と研究者の認識に随分と差があるもんだな、と感じたりしています。
2.制作期間はもっと長めに見積もった方が良い・・・・(・_・;)
加えて気になったのが、制作期間(発注から納品まで)を妙に短く認識されてる、という実態でした。
7日以内にできると考えている回答者が72%という事実には正直驚きです。
サイエンスイラストレーションはそこまで直ぐに完了する作業ではありません。
これはイラストレーターの技術面の問題と言うよりも、研究者側とイラストレーター側の完成物のイメージの差によるものであると考えられます。
海外だとサイエンスイラストレーターという専門職があり、その道の技術を学ぶ為の
教育コースも存在したりしますが、日本ではそういう職業の方はほとんどいません。
科学や研究の背景知識を知らないイラストレーターさんに仕事を投げると、どうなるかは
大方イメージが湧くでしょう。研究者がイメージしているものと全く異なった絵になる可能性が
高くなります。これを防ぐには、依頼する研究者側が逐一科学的な部分を分かりやすく指示し
ラフ画を描いて示す、というやや面倒な手順を踏む必要があります。
微修正を繰り返すことになり、最低でも2週間は掛かると見た方が安全です。
もっとも、イラスト制作側に科学のバックグラウンドがあれば話は別ですが。
如何でしたでしょうか?日本では研究業界とイラスト業界が完全に分離された分野であるため、
認識のズレが生じるのはある意味仕方が無いことかもしれません。
こうなると「自分で作るのが最も楽」という考えに至る人も多いでしょう。
僕は一貫して、こういう問題の解決策としてBlender 3Dを使った説明図画の制作が有力とお話ししています。
手描きでイラストを描く場合、陰影や遠近法などイラスト独特の描写の難しさに悩まされることが多くなりますが、3DCGソフトはそのあたりの問題を難なく乗り越えさせてくれます。
色々書きましたが、結局は宣伝になってしまいました。
お後がよろしいようで。。。。。
参考文献
田中佐代子、小林麻己人、三輪佳宏、「科学者によるサイエンスイラストレーション作成の実態」、藝術研究報32、2011