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【書籍レビュー】「ネット絵史」 ネットとイラスト文化の関係性

いま気に入っている本に虎硬氏の著作「ネット絵史」がある。

随分前に購入して積読したままだったのだが、

休日に腰を据えて読んでみることにした。

この本は題名にあるようにインターネットの発達が、

イラスト業界の発達にどのように寄与したのかを

1990年代から30年程度の経緯を解説している。

バイオ分野が生業である故、全くの門外漢であるが、

非常に勉強になったので、復習までに要点を整理しておこうと思う。

 

ネット絵史 インターネットはイラストの何を変えた?

ネット絵史 インターネットはイラストの何を変えた?

  • 作者:虎硬
  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: 単行本
 

 

※あくまでも筆者の個人目線での要約のため、

一部齟齬があると思われるが容赦頂きたい。

 

話の流れとしては、以下の通りである。

 

1.【時代背景】インターネット黎明期のイラスト文化

1990年初期のインターネット黎明期、当時から漫画、製品パッケージ、

ゲーム、個人の創作活動としてのイラスト制作は存在していた。

しかし、家庭用PCやネットの通信技術が未発達であったこと、

イラストツールも利便性や、価格の面で敷居が高かった。

よって、商業、非商業問わずイラスト制作はごく限られた界隈での活動であった。

 

また、リアルでのコミュニティ活動として

コミケコミティアなどの同人誌イベントは存在したものの、

インターネットが普及していない背景もあり、

かなりクローズドな世界での盛り上がりを見せていた。

 

 

2.インターネットが普及し始めた頃のイラスト文化

しかし、時間が経つにつれ家庭用PCが安く購入できるようになった。

同時期にネットの通信速度が飛躍的に向上していく。

これにより、データサイズの大きなイラストであっても高速なやり取りが可能になり、

ネットを介したイラストの発信と受信が容易になっていた。

 

 

3.イラスト制作ツールの発達

イラスト制作をより一般化させる要因に、イラストツールの発達があった。

ネット黎明期には「お絵かき掲示板」のように、

オンラインで簡単なイラストを制作できるインフラがあった。

一部の職人と呼ばれるような人たちは、

機能的な制約の中でも独自の表現を確立していった。

 

やがて、CLIP STUDIOを含め利便性を飛躍的に向上させたツールが

多くリリースされた。

これが創作の敷居を格段に下げる原因になった。

 

4.SNS勃興による個人の情報発信力の強化

インターネットでSNSが発達したことにより、

プロアマ問わず多くの創作主の作品が公開され、

閲覧される素地が形成された。

特にTwitterは絵師の営業ツールとして不動の地位を確立している。

Twitter にアカウントを持つ有名絵師は、

コミケなど即売会にも参加するケースが多く、

結果的にSNSをキッカケにコミケコミティアに参加するファンが増え

即売会は幅広い層に受け入れられることに繋がった。

同人文化としての盛り上がりの歴史を語るうえで、

SNSを中心としてネット進化は切っても切れない関係にある。

 

 

こうしてみると、イラスト業界の発達の要因は大きく

  • コミュニティ
  • ツール

の2要素に分かれると考察した。

 

まずコミュニティについてだが、

これは更に以下の要素に分かれる。

(1)インターネットを介したコミュニティ

例としてチャット、掲示板、ニコ生、SNS

(2)リアルでの人同士のコミュニティ

例としてコミケコミティアのような大規模即売会から、

街の市民会館で行われるような小規模即売会

さらに言えば、同じコンテンツ、創作活動を楽しむ仲間同士のオフ会

 

 

そして2つ目のツールだが、

これは時代と共に大きく3つのステージを経てきたと読めた。

  1. インターネット黎明期:お絵かき機能を持つ掲示板、プロのアニメーション
  2. 利便性の向上したプロ向けツール:一部の漫画制作やアニメーション
  3. 廉価かつプロアマ問わず使用できるツール:有名どころではCLIP STUDIO

 

しかし、どちらの方がより大きな意味を持ったかでいえば、

現時点では「コミュニティ」の方が寄与は高いのではと考えている。

ツールの利便性は確かに重要であるが、

創作のモチベーションは、誰かに見て貰える、

趣味を共有できることにあると感じるからだ。

 

それを踏まえると、イラストを中心とする創作文化を形成するうえで、

創作主どうしを繋げるプラットフォームが必要だったのでは。

SNSやpixivはそれに一役買ったのかもしれない。

 

 

また頭の整理がついたら、色々考察してみようと思う。

 

 

なお、同氏の「ネット絵学2018」もオススメです。

ネット絵学2018

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