突然ですが、皆さん虫を食べたことがあるだろうか?
現在、新しい食糧危機に備えた次世代タンパク源として注目されている。
かくいう自分も培養肉(業界名はCell-based Meat)に関わる身
自分たちの立ち位置や、今後の社会受容について考えるために、昆虫職を体験する意義があるのではないかと日ごろ考えていた。
そんな矢先、昆虫食イベントへ招待頂き、是非ともということで参加した。
ということで、先日初めて昆虫食を食べた体験についてレポをすると同時に、それを食生活に取り入れていくうえでの趣向について整理してみた。
(タイトルの「?」は、まだ確実な結論が無い話という意味。)
昆虫をご馳走になった経緯
そもそも、なぜ昆虫食を体験することになったかと言うと、以前からお知り合いの昆虫食料理研究家である内山昭一さんに試食ワークショップへお誘い頂いたことがきっかけだった。
彼は日本での昆虫食の界隈では有名な方で、昆虫文化、様々な料理への活用方法についても造詣が深い方
また自分と同様、食の文化を増やそうと活動されている人間の一人であったため、是非ともその活動を深く知りたいという思いもあった。
昆虫の味を堪能するため当日は昼飯を抜いていった。
感想:単純に旨い。料理としての活用の幅は広い。
阿佐ヶ谷にあるとある喫茶店会場に着くと、メニューを渡された。
店の外ではフライパンで何かを炒めている。あまり見ないようにした。
ちなみに当日のメニューは次のような感じ
- セミ成虫3種雌雄食べ比べセット(乾燥して粉末にしたアプラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ)
- セミ幼虫の素揚げ
- モンスズメバチ幼虫のバター炒め
- キイロスズメバチ幼虫甘露煮のせコオロギパスタ
- コオロギ粉クッキー
- ドライコオロギせんべい
- 女王ハキリアリの乾物
- スズメバチ成虫のキャラメリゼ
よくこんなにも昆虫で料理が出来上がるものだと思った。
以下食べた料理の写真と感想を並べる。
1.セミ成虫3種雌雄食べ比べセット(写真は撮り忘れた)
味は淡泊の極み。加えて香ばしい。
粉になっていたが、香りはややレタスなど葉物野菜に近い。
お好み焼きの薬味とかに使えそうな印象。
興味深かったのはセミの種や、雄雌で微妙に味に変化があること
雌セミの粉は、やや旨味が強い感じだった。
もう少し明確に味の違いが出るのであれば、雄雌両方を使った料理の中で味の緩急をつけられるかもしれないと妄想膨らむ。
2.セミ幼虫の素揚げ
当日、食べる時に最も抵抗感を感じたもの。
だけど1個食べれば何個でも食べれる。食感はだいたいエビ。
身はエビよりも少ないが、腹の部分はエビよりも柔らかく脂質的な味
聞くところによると、土の中で過ごすセミの幼虫は胸についた脚を使って土をかき分けて動いているため、胸は繊維質が多く、腹は脂質系に富むらしい。
脂ではあるが、全くしつこくない。
昆虫が低脂質高たんぱくと言われる所以はこれかもしれない。
3.モンスズメバチのバター炒め
今回の試食会で一番美味しかったもの
バター醤油という人類最高の味付けもあるが、材料の蛹自体が柔らかくトロに近い味だったのも美味しさの原因かもしれない。
昆虫そのものの美味しさと、調理方法が適合している印象
内山氏いわく、蛹になりたてくらいが一番旨いらしい。
※「バター醤油でならコンクリートでも食える」と豪語していた某漫画のキャラクターを思い出す
4.キイロスズメバチ幼虫甘露煮のせコオロギパスタ
幼虫(蛹)は鶏レバーに近い味だった。
甘露煮のあまじょっぱい味付けによく合う。
動物の食べたものが体内に残っていることがレバー味につながっているらしい。
パスタは淡泊で健康的な印象。コオロギの味かどうかは粉では分からない。
やはり昆虫の風味はそのままが一番良さそうだ。
コオロギパスタはタイでは一般的に流通しているものらしく、主食に向いている様子
単体だと味気ないが、甘露煮など濃い味の惣菜との組み合わせが良い点は、白米と同様
5.コオロギ粉クッキー(写真撮り忘れた)、ドライコオロギせんべい
これもパスタと同様、淡泊な味わい
昆虫の味を体験してもらうためか、薄味で砂糖や塩を入れていた。
7.女王ハキリアリの乾物(写真取り忘れた)
内山氏が本イベントで最もレアな昆虫であると言い切るハキリアリの乾物
南米原産のアリで、巣の中でキノコを栽培する習性から「農業をするアリ」として有名
女王バチは胸と腹で食感が大きく異なる。胸部分はあっさりしているが、腹の部分は大きく膨らみ 、身がぎっしりしている。
味の緩急から思いつくものといえば、「たい焼きのしっぽ」のようなイメージか
ありんこ日記 AntRoom:南米ペルー調査 その13 ハキリアリの菌園観察
イベントのデザート
味はキャラメルポップコーンに近い。
昆虫であることを忘れるほど、スナック感覚で食べることができる一品
食料の趣向は「分岐」と「段階」の組み合わせで説明できる?
まずはイベント参加した後の率直な感想を整理した。
(体験してみての感想)
- 昆虫食そのものは十分な味と料理との相性が期待できる。
- 1つ食べれば、2つめの抵抗感はない。
- セミを食べれる=どの虫でも食べれる、ということではなさそう。
もう少し深堀りしてみます。昆虫食の趣向というのは、大きく分けて
- どの種類の好きになるか?という趣向の「分岐」
- ある種類の虫をどのくらい好きになるか? という趣向の「段階」
の2要素の組み合わせで考えることができる、というのが自分の仮説だ。
(1)昆虫食意識の「分岐」
まず分岐についてですが、ここではどの種類の虫を好きになるか?という観点で考えてみる。
身近な昆虫を幾つか挙げてみると、アリ、セミ、バッタ、コオロギ、キブリ、ムカデ(厳密には昆虫ではない)、カイコがある。
またそれらの昆虫は全て、卵、幼虫、(蛹)、成虫といった形態のステージが存在する。
アリを食べれるがセミには嫌悪感を示すといった状況、同じアリでも特定の種類のアリが特に好き(嫌い)という趣向の可能性を考慮すると、以下の図のような趣向の分岐ができあがると考えられる。
さらに分岐させるのであれば、「体色」「臭い」「オオクワガタか?コクワガタか?など虫の種類」といったパラメータを追加していくこともできるだろう。
(2)昆虫食意識の「段階」
次に趣向の「段階」について考えてみる。イベントで食べたのは大きくても小指程度の小さな昆虫だった。
1つ食べてみると、2個目のハードルが低い。2個食べると3個以降はポテチ感覚という風にハードルが低くなっていることを感じた。
一方で、この状態から突然大きな虫(例えば20㎝サイズの何か)が食べられるかというと疑問がある。
ある昆虫を食べれても、その種類の全ての昆虫が食べれるわけではなく、大きなサイズを食すにはまた別の心理的な障壁がありそう、という感触だ。
これを整理すると以下の図のようになる。
また別の観点でいえば、 小さな虫を食べれても、それが大皿山盛りの状態で食べたいかという量による心理的障壁もあり得る。
食趣向は個人の体験でいくらでも変わりそう。問題は入り口
イベント中、開場でご一緒した親子連れから興味深い話が聞くことができた。
「子供は去年から昆虫食を体験し続けている。今では虫の味を覚えてしまって、アリの中でも、どのアリの種類が美味しいとかまで言い出している」
この話を踏まえると、食料への意識とは生きている国の文化よりも、個人の食体験に依存する部分の方が大きいかもしれない。
事実、自分と比較して「何でそんなもの食べるの?そんな食べ方するの?」という食趣向を持つ人は沢山いる。
一般的に嫌悪感の対象となりやすい昆虫食であるが、食の嫌悪感は必ずしも昆虫だけに適用される訳ではない。
例えば寿司屋で出されるホヤ貝も、その見た目や食感で嫌悪感を示す人もいる。
食意識を形成は非常に複雑なものであり、このブログ記事だけで全てを語るのは到底不可能だ。
ただ、それは個人の中である程度意識形成のプロセスが完結する気もしてきた。
さて、培養肉についてはどうだろうか?
これについては更に整理が必要なので、次回以降に書こうと思う。
整理したいことは山ほどある。
参考図書
余談ですが、昆虫食についてこんな記事を思い出しました。