Culture Square

細胞培養で文化を創りたい人間のブログ。基本日々の備忘録です。

【人工培養食肉】どうやって作るの?いくら掛かるの?美味しいの?

どうも、いやあ今日も春真っ盛りな気候ですね。 本当なら外に出る方が良いはずなんですが、相も変わらず内勤でっせ。 さて、先日の投稿で初めて「培養食肉」について言及しました。 これは僕が所属するアジア初培養肉研究「Shojinmeat Project」をより多くの方々に知って貰うためです。 そんなわけで、今回も培養肉の現状と今後について言及してみたいと思います。 1.どうやって作るの? まずは作り方。現状ではディッシュ上で地道に細胞を培養しています。 具体的にはウシや豚から筋肉の素となる「筋芽細胞」を抽出してきます。 これをディッシュ上で培養し、ギチギチに増えたところで筋線維を形成させるための培地(分化用培地とも伊呼ばれ、ウマの血清が入ってます)へ交換します。これを5~7日間培養(実質放置)すれば、「筋管」という線維状の組織が出来ます。これをかき集めると、挽き肉のような塊が完成します。 muscle.danretsu.jpg 実際の筋組織のイメージ。筋線維が寄せ集まって完成する。 dish.bee2f.png ディッシュでの培養後のイメージはこんな具合。これらを大量に集め、塊を形成させる。 ただ、この手法は色々と問題を抱えています。例えば、以下の2つがあります。 (1)コストが掛かり過ぎ 2013年に試食会がロンドンで開かれましたが、当時はハンバーガー2個分のパテを作るのに2800万円掛かりました。正直言葉にならないレベルですな。このコストの内の9割くらいが培地(細胞を増やす際に使うスープ。アミノ酸、糖分、ミネラルを含む)によるものなんです。なぜそこまで高くつくかというと、培地に含まれる血清がコスト高(500 mLで¥40,000~ 50,000)だからです。当然のように産業レベルでの肉の生産は難しいので、血清の代替になるような素材が必要になってきます。 (2)挽き肉しか作れない ディッシュには細胞が張り付いて増えることしかしてくれないので、挽き肉状にしかなってくれません。スーパーに打っているような、ベーコンやステーキ肉のようにはなってくれないわけです。ベーコンやステーキ肉は細胞(筋線維)がある一定の方向に配置されるからこそ、あの形を形成できるんです。てなわけで、形をある程度制御するには、「足場」という要素が必要になってきます。足場の材料としては、マイクロ径の繊維が使われたりします。 crimping.fiber.png 足場が一定の方向に向いていれば、細胞も同じ方向に伸展してくれる。この状態で増やして、肉の形を整える。 (3)細胞を増やすだけでは大きな塊を作りにくい。 ただ増やすだけでは作れる肉の大きさにも限界があります。これを克服するには、外部から刺激を加えてタンパク質の量を増やす必要があります。筋肉は電気刺激や機械運動(引っ張りが正にそれ)に対し応答性を示すことは古くから知られています。詳しいメカニズムは専門書に任せるとして、形成されていく肉を大型にしていくにはタンクの中で電気刺激を加えつつ、線維の方向へ引っ張りを繰り返す方が望ましいとされます。 0365.png 肉を専用のバイオリアクター内で培養する。もちろん、電気刺激と引っ張りも欠かさずに。 また産業レベルで生産していくには、この機構を大規模にしていく必要があります。専門家の中には5階建てのタンクの中で培養する構想を打ち出している人もいますが、足場のサイズを考えるとあまり現実的ではありません。挽き肉なら話は別ですが。とりあえずは、小規模なバイオリアクターを大量に設置・使用することで進むかもしれません。 食肉培養工場2.jpg >2.美味しいの? 残念ながら、現状ではまだ「歯ごたえはあるが、味が薄くジューシーにならない」状態です。というのも、肉の旨みのもとである脂肪分(脂肪組織)を含んでいないからです。この壁を乗り越えるためには、脂肪組織との共培養が必要なわけです。原理上、共培養は不可能ではありません。しかし、筋肉と脂肪それぞれの組織がうまい具合に一体化してくれるという保証もない上に、組織が大きくなると栄養や酸素が行き渡らない部分の細胞が死ぬことが懸念されます。 実際、今の組織工学研究では如何にして壊死を食い止めて大きな組織を造るかで日々研究がされています。理論上では血管を導入できれば良いのですが、血管網が組織に行きわたらせること自体が高難易度になっています。 いずれにせよ、まだまだ技術的には問題アリアリなのが培養肉生産です。 しかしこの分野は再生医療など広い分野で応用が利きます。バイオリアクター内での培養技術は、臓器の長期保存や臓器再生のヒントになるかもしれません。これはもう、期待するしかないですな。今から楽しみです。 <参考文献> Nicola Jones, A taste of things to come?, NATURE FEATURE NEWS, 2010