培養X年目の与太話

培養、与太話

細胞培養と与太話で生きてます。

「フードテック」がフワッとしてるのでザックリ整理してみた

「フードテック」という言葉がメディアで取り上げられるようになったのはここ数年の話だが、最近その言葉の中身が非常にフワッとした言葉だと感じた。

 

そう思ったきっかけは今年の6月に開催されたAG/SUMでのこと。
自分が所属するインテグリカルチャーもブース展示をしたが、周りに自分たちのようにバイオ臭を漂わせる会社はほとんど見受けられなかった。基本的には既存の農業をどのように効率よく簡便に行うか?自動化するか?に焦点を当てたテクノロジー(ITや機械)に特化していた。

 

そもそも、メディアでは「フードテック」という言葉がどのような意味で使われているのか?以下の参考サイトでは、

IoTと融合したスマートファームやスマートキッチンも包括しており、世界中で注目を集めている技術

とされている。つまり、基本的には情報技術による食品産業の革命という文脈で囚われているのだ。

 

IoT 自体は政府が最も注目している技術分野の一つであり、実際に行われている国のプロジェクトではIoTと農業の融合は重大トピックになっている。この分野に参入する企業が増えてきたのは納得だ。

 

dxleaders.com

 

 

そんな状況を踏まえ感じたこととして、フードテックという言葉自体が様々な業種やサービス、技術を包括しているが故に、同じ言葉で説明をするには無理があるということだった。勿論、分かり易くまとまった言葉があるのであれば、メディアの立場からすれば説明が楽だ。その一方で、細胞培養による食料生産という分野を扱う立場からすると、同じ枠の中で括られるのが正しいのか?という疑問も生じる。

 

自分の脳内を整理するためにも、今のフードテックという言葉を思いつく限り分解してみようと思う。結果、フードテックに含まれる分野は大きく4つに分かれた。

 

 

  1. 既存に無い、根本的に新しい生産技術の確立を目指すもの
  2. 既存の農業や漁業に対し、技術導入により生産効率向上を目指すもの
  3. 食料の流通革命を目指すもの
  4. 消費者による食機会を提供するもの

 

 

1.既存に無い、根本的に新しい生産技術の確立を目指すもの

 この分野で今一番目立つ分野として人工肉(クリーンミート or 純肉)がある。さらに技術内容で分解すると、細胞培養肉と植物性肉の2つに分かれるが、従来の家畜のみによる食肉生産とは異なるという点で共通している。細胞による食料生産には「細胞農業」という新しいカテゴリーワードが世界的に定着し始めており、今後国内でも使用される機会が増えると思われる。

ミンチ肉を製造することは資金さえあればどうにでもなるが、現状でステーキのような厚みのある肉(筋肉組織)を作るのは不可能だ。これを達成するには、再生医療分野でも大きな壁になっている「血管新生」を誘起させ、血管を維持する技術が絶対に必要になっていく。そのような点を踏まえれば、フードテックの中でも特に「ディープテック」な分野と捉えることができる。

 

先日の細胞農業界隈でも最近になって業界地図がつくられたが、この業界だけでも多数のスタートアップや大なり小なりの事業会社が絡んできている。その中身の多くは海外だが、これから日本国内でも参入する企業が多くなり地図はさらに複雑化すると予想される。

 

jp.techcrunch.com

 

www.memphismeats.com

 

 

2.既存の農業に対し、技術導入により生産効率向上を目指すもの 

これは主にITや機器を導入することにより、持続可能な食糧生産を実現する分野とザックリ定義できる。IoTによる作物生産のベジタリア、植物工場システムのPlantxはこの分野に属している印象が強い。

 

www.vegetalia.co.jp

 

www.plantx.co.jp

 

 

生産の効率化において、別のアプローチから挑戦する企業もある。
最近知り合った会社の中で特に印象深かったのが、イエバエによる魚飼料と肥料開発を行う株式会社MUSCAだ。イエバエの幼虫が家畜動物のフンを分解して肥料を作り出し、またイエバエを乾燥させた漁業用資料は魚の成長を促す効果が期待できるらしい。
彼らとはAG/SUMの会場にてブースの隣どうしで知り合ったが、その一度で二度おいしい技術は興味深かった。

 

musca.info

 

 

3.食料の流通革命を目指すもの

食品業界では、その流通の過程で大量の食料ロスが問題となっている。また、近年度々騒がれているような産地偽装も深刻な問題とされている。
これら食品ロスを始めとする流通の無駄・情報の遮断を防ぐため、流通革命を目指した企業も出てきている。

一例として、プラネットテーブルがそれにあたる。
生産者と消費者を直接つなげるサービスによって、流通過程によるロスも少なくなり、それぞれのプレイヤー間の直接の情報のやり取りにより、信頼のある取引が確実になると予想される。

 

 

send.farm

 

 

4.消費者に対し食機会を提供するもの

そして最後のグループとして、主に消費者に対する食の機会を提供する分野だ。

KOMPEITOが行う新鮮な野菜を法人に届けるサービスは、栄養が偏りがちな社会人にとって嬉しい。オフィスでも気軽に野菜を摂る機会を得ることができる。

 

jp.techcrunch.com

 

 

オリジナルの動画コンテンツを使った事業も複数見られる。エブリーやDelyが運営する料理レシピ動画配信サービスについては誰もが良質な料理コンテンツにアクセスできるような仕組みになっている。クックパッドも料理コンテンツだが、上記2つのサービスについてはプロが制作した動画コンテンツである点が強みだ。


特にエブリーについては、今年6月のAG/SUMの会場にて、同じフロアで展示していたことは印象深かった。そこで初めて、このような動画コンテンツについても広義でのフードテックになるのだと感じた。

 

corp.every.tv

 

www.kurashiru.com

 

 

まとめ

この記事を書きながら、自分でも世のフードテックの定義の広さに驚いている。
純肉を扱う身としては、フードテックの中でも殊に「バイオフードテック(仮称)」であることを念頭に情報発信していきたい。

 

メディアもこのあたりの違いを意識した情報発信をお願いしたいものだが、中々難しいのかな?