今回はイベントのレポートです。
3/2~3/3にて株式会社リバネスが主催する「超異分野学会」に行って来ました。
目的は研究のポスター発表をするためです。
リバネス「第6回 超異分野学会 600人が参加」 - フードボイス
発表タイトルは
「研究者による3Dデータ使用法の最適化と科学コミュニケーションへの応用」
研究者が3Dデータを使用することの意義を科学コミュニケーションの観点から提案し、メソッドを金銭的、時間的コストの面を最適化(最小限に)するか?
という内容でした。
実際のポスター展示の様子です。
布印刷をやってみましたが、折り畳んで鞄にしまえる便利さに驚きました。
そもそもなぜ3Dモデルを使うのか?
今回の発表では3Dモデル使用の3つの利点を挙げました。
1.視覚的な説明
まず、大前提として「視覚的に物事を説明できる」という利点があります。
研究者の場合、自身が行っている研究そのものを指します。
新規性のある研究であるほど、その中身を異分野の研究者、
更には一般の方々に理解して貰うことは難しくなります。
そこで、文章ではなく絵を用いて簡潔に伝えることが有利と考えられます。
ノーベル医学賞受賞者の山中先生も同じことを仰っていました。
sciencecontents.hatenablog.com
2.複雑な形状表現の自由度
パワーポイントで説明用図画を描く際、ひたすらコピペを繰り返すなどして図を作っている例を目にします。
1つの図を描くのにも1時間以上を要するのでは?と思う位です。
複雑な形状の制作は3Dの最も得意とする部分です。
元々は建築物やキャラクターなどを制作することを前提にしているため当然です。
3Dモデルの形を作る作業を「モデリング」と呼びますが、この作業は少し練習すれば大方のものは出来てしまいます。
特に研究者が説明用に制作するモデルには、アニメなどに出てくるような緻密さは必要ありません。
(実際に作っている様子は、以降の動画を参考にどうぞ)
「説明性」を重視すると、おのずとシンプルなものに仕上がっていきます。
3.見る角度の自由度
3Dモデルは専用ソフトに読み込むことで、立体的な説明図画を簡単に出力できます。
しかも様々な角度から見ることが出来るため、説明の際に注目して欲しい部分に合わせた絵が制作できます。
3Dモデルを利用するにあたっての障壁
では早速3Dソフトを使ってみよう!となりたいわけですが、
一般の研究者が参入するにはやや面倒な事情が3つあります。
1.理系の研究者向けにノウハウが体系化されていない。
基本的に3Dソフトはプロダクションで制作する、プロのクリエイター向けの仕様になっていることが多く、一般の研究者がゼロから始めるには難があります。
「説明するための3Dモデル」を作るには、無駄な技術も多くあるため
どの程度技術を習得すれば良いのかをハッキリさせる必要がありました。
2.ソフトウェアの併用の最適化
一般的に3Dでの作業は複数のソフトウェアを組み合わせて行います。
これを研究者に当てはめた場合の方法を考えなくてはなりません。
特に分子構造といった形状は、3Dソフトでも手作業で作るには苦労します。
原子を地道に並べて行く必要があるためです。
これを普段の研究用ツールとの互換性の観点から解決する必要があります。
3.一般的に3DCGソフトは高額
よく3Dモデリングで使用されるMayaや3ds MAXは商用利用されることを目的に開発されているため、高額です。プランによりますが、¥20~30万は下りません。
研究費を取ってくることが至上の研究者にとって、実験以外の部分に大枚をはたくのは適切ではありません。
検討してみたらこうなった
1.最低限の技術にまとを絞ったら・・・?
ノウハウ最適化の検討を行う為に、この2年間Science CG塾という講座を開講しました。
ここで実際に組み立てたノウハウを現役の研究者に指導し、どのくらいの図画が創れるようになるか?どの程度のモデリングができるようになるかを調べました。
その結果、モデリング習得には2時間×2回の講義、
画像制作についてはプラス2時間×4回の講義にて
・画像出力(カメラの使い方)
・質感設定(立体色塗り)
・光の設定
のみを扱うだけで習得できることが分かりました。
合計12時間で大方のものが作れることになります。
実際に科学系の研究者の方に使って頂きましたが、
ポスター用の画像が30分程度で完成しました。
2.研究用ツールとの互換性考えてみた。
研究用ツールとして、分子お絵描きソフトChemsketchやAvogadro、Jmolといったソフトウェアから3Dモデルを出力することにしました。実際に画像出力に使用するソフトに読み込む際には適宜データ形式の変換が必要になるため、変換ソフトOpen Babel GUIを使っています。
3.無料ツールのみの使用
3Dツールとしては、無料のオープンソースソフトウェアであるBlenderの使用が
最適という結論になりました。
前述の研究用ツールも、全てフリーであるため余計なコストを掛ける必要が
なくなります。
研究者が直ぐにでも導入できるような制作環境が見えてきました。
新しく見えてきた3Dモデル使用の利点
さて、このように制作が可能になると単に
「分かり易い絵が創れる」以外の活用方法が無いか気になるところです。
そこで、「実験の遂行」という点で更に一歩踏み込んだ検討をしてみました。
例えば、手元にこんな3Dモデルがあったとします。
光学テーブルに使う器具をイメージしました。
これを3Dプリンターで出力すると、実際に実験器具として使用できます。
通常売っていない器具でも、3Dプリンターであれば簡単に用意ができます。
ABS樹脂を使えば、材料費も数百円で済みます。
さらに同じモデルを使って、実際の実験イメージ図画も書くことが出来ました。
また最近話題のVRコンテンツにも、3Dモデルは応用が効きます。
試作したVR映像はこちらから
Virus and red Blood cell on the hair - YouTube
このように3Dモデルは
「実験の遂行」「研究の発表」という両面で使用できるという結論に至りました。
今後は今回の方法を更に研究分野ごとに洗練し、研究者の方々に発信して行こうと思います。
それではまた。
使用した発表ポスター全体図はこちら